今日、HMBはアスリートやビルダーに注目されている話題のサプリメントとして知られています。有名なスポーツ選手も愛用しているので、ますます関心が強まっています。
しかしその一方で、HMBがいったい何なのか、そもそも本当に効果があるのかと疑問を持つ方も多いかと思われます。というのも、ネット上には肯定的な意見と否定的な見解とがごちゃまぜになってしまっているからです。これでは、初心者は「いったいどっちなんだよ?」と苛立ちを覚えてしまうことでしょう。
そこでこの記事では、HMBの基礎知識とともに、HMB否定派の真相を説明しようと思います。結論から言えば、約20年にもわたる実験データの蓄積からHMBの効果は正式に認められ、日本の学会でもオフィシャルな見解として肯定されています。
ではなぜHMBはしばしば批判の的になってしまうのでしょうか? その謎をしっかりとご説明させていただきたいと思います。
そもそもHMBって?
HMB (beta-hydroxy-beta-methylbutyrate)は、日本では「ヒドロキシイソ吉草酸」と呼ばれています。これは、必須アミノ酸ロイシン (leucine) の代謝物です。トレーニング好きの方なら、「必須アミノ酸」という言葉を聞いて思い浮かべるのは、やはり「BCAA」かもしれません。実際、こちらのほうが研究史は長いです。HMBは、比較的最近にその存在が確認された物質なのです。
HMBが学術研究の対象となり始めたのは、およそ20年前です。海外で日の目をみることになりました。それではなぜ、学者の関心を集めたのでしょうか? それは、HMBが筋タンパク質(muscle protein)の生成に大きな貢献をしていることが判明したからです。
現在でもそうですが、当時からトレーニング補助食品の王道はやはり「BCAA」でした。筋肉のエネルギー消費に欠かせない必須アミノ酸の代名詞。それが「BCAA」です。しかし、90年代の後半にスポットがあてられたHMBは、「BCAA」とは異なるユニークな性質があると考えられたのでした。
1996年にスティーブン・ニッセンという研究者たちの発表した論文が、HMB研究の先駆けであり、すべてのはじまりでした。ニッセンらは、HMBに筋組織の破壊(損傷)を軽減することを発見しました。スティーブン・ニッセンはHMB研究の第一線で現在も活躍し続けています。のちの研究でも、多大な貢献をしています。2000年代初頭、筋力を増大させる効果があることを実証したのも彼でした。
やはりと言うべきか、HMB研究は、とくにアメリカで非常に盛んだったようです。大学も含めてアメリカの研究機関は、「実用性の見込めそうな研究」には資本提供を惜しまない気風があります。その結果、HMBに関する膨大な臨床試験データを蓄積することができました。英語文献の多さがそれを物語っています。
日本語で書かれた論文が少ないのは残念ですが、海外の研究者たちの実証研究が実を結ぶことによって、今日では、HMBが、あの「BCAA」と並ぶトレーニング補助食品の代名詞となりました。副作用がなく、安心して摂取できるので、プロのアスリートも支持しています。
現在、日本でもHMBの効果は支持されています。スポーツ栄養学の知識を集約することを目的とした「日本スポーツ栄養学会」では、2013年にHMBのガイドラインが提示され、その科学的根拠を認めています。
HMBの具体的な働き
HMBは、筋タンパク質の破壊を遅めつつ合成を早めることで、筋細胞の構築を促します。筋タンパク質の合成は、mTOR(エムトール)と呼ばれる物質が関わっているのですが、HMBには、そのmTORを活性化させる働きがあるのです。
HMBの効果は、概して5つに大別できます。
- 筋肉量の増大
- 筋組織損傷からの回復を早める
- 筋肉の持久力を高める
- 筋肉の衰えを予防する
- 脂肪量の減少
これらは、多くの臨床実験の蓄積が実証したものです。スティーブン・ニッセンの研究報告と、後続の研究者たちによる実証研究の成果と言えるでしょう。
現在、HMBは老若男女問わずに働いていることが判明しています。成長期を間近に控えた子供から、60歳以上の高齢者まで、じつに幅広くデータをとっているからこそ、HMBの効果は「事実 (facts)」として論じることができるのです。
上に挙げた5つのポイントからわかるように、基本的にHMBは、ウェイトトレーニング時に効果を発揮します。アスリートのように、高負荷トレーニングをする人の肉体は、一般人よりも多くのHMBを必要とするからです。筋肉の持久力がつくので、長距離ランナーにも心強い味方となるでしょう。
しかし、それだけではありません。HMBは、筋肉が損傷した場合に、筋組織の修復を早めるので、ケガをしたアスリートにもおススメできると言われています。また、HMBには筋肉量の減少を抑制する働きがあるので、減量をしなければならないときにHMBを摂取すると、脂肪を減らしつつ、筋肉を維持することが可能となります。
また、日本人は40歳を過ぎると筋肉の衰えが始まります。筋タンパク質の合成がうまくいかなくなってしまうためです。だから加齢に伴って筋肉が衰えてしまう高齢者にも、HMBは効果を発揮します。
こうしてみてみると、明らかにHMBが「BCAA」とはまったく違うことがわかるでしょう。
HMBの摂取方法
では、HMBを摂取するにはどうしたらよいのでしょうか。
HMBは、わたしたちの摂取する必須アミノ酸ロイシンを分解して生成されます。しかし、生産効率はあまり良くありません。得られるHMBは、必須アミノ酸からわずか5%程度と言われています。
HMBを「効率よく」摂取する代表的な食べ物は、代表的なもので概して3つ挙げられます。
①ムラサキウマゴヤシ
まずひとつは、「ムラサキウマゴヤシ」です。ウェイトトレーニング好きの方なら、ピンとくるかもしれません。ムラサキウマゴヤシは、「アルファルファ」(Alfalfa)や「ルーサン」とも呼ばれ、もともとは家畜の牧草として与えられていた栄養価の高い多年草です。人間が食べることもでき、しばしばサラダに使われたりします。
近年は、栄養価が高いこと、そしてなににもましてHMBを豊富に含んでいるという理由から、サプリメントに加工され、ひそかなブームになっています。人工栽培化が進んでいるので、ムラサキウマゴヤシは比較的簡単に手にはいります。
②赤身の魚
HMBを摂取しやすい食べ物のふたつめは、魚です。筋力トレーニングの王道、魚。肉以上にトータルバランスに優れ、高タンパクかつ低カロリー。まさに、筋力を求める人には理想の食べ物です。
そして魚のなかでもとくに、HMBの元となる必須アミノ酸ロイシンを含んでいるのが、「赤身の魚」です。マグロは、昔からビルダーのお供ですよね。マグロの刺身6切れに対し、ロイシンは約1260g含まれていると言われています。これは、タンパク質の王様である赤身の肉に次いで多い含有量です。
③肉
トップクラスに必須アミノ酸ロイシンを含んでいるのは、やはり肉です。脂肪分がネックではありますが、HMBを多量に摂取するうえで、これに勝る食べ物はありません。牛肉の赤身100gに対し、ロイシンはなんと1800g含まれています。同じく、鶏むね肉(皮なし)も1800g。鶏もも(皮なし)は1500gと言われています。
他にも、上記の3つには含有量は劣りますが、毎日継続してコツコツ摂取できるという意味でおススメのHMB食品を2つ挙げておきましょう。
④納豆
これもまた、ビルダーの心強い相棒として長らく愛されている食べ物ですよね。納豆のロイシン含有量は1パックにつき約650gです。つまり朝、昼、晩に食べれば、肉と同等の摂取量になるということです。
⑤高野豆腐
野菜のお肉といえば大豆。大豆といえば納豆と豆腐です。低価格で高タンパクなので、日々の食事のお供にしていれば、しっかりとHMBを確保することができます。
いかがでしたか? HMBを摂取するには、そもそもの元である必須アミノ酸ロイシンを摂らなければなりません。なので、それを多く含む食物を積極的に取り入れることが肝要になります。
とはいえ、先述したように、体内のHMB生産効率はけっして高くないです。スポーツ栄養学会のガイドラインによれば、一日の適切なHMB摂取量は38gです。しかしこれは、激しいトレーニングで筋肉を披露させてしまうアスリートにとっては、また別の話になってきます。
その最善の対処法は、やはりサプリメントで直接摂取することでしょう。今日ではアメリカ産のHMBサプリメントが揃っていますので、容易に手にはいります。
“効果なし”という噂の真相~「科学」をしっかり理解しよう~
しばしば、HMBの効果について懐疑的な見解がネット上に散見されます。調べてみると、「HMBサプリメントはお金の無駄遣いだ」と断言してしまう主張さえ見受けられます。
しかしそれは、ある事実の一部だけを切り取り、そこだけを過剰に強調させてしまうことで本質が見えなくなっているに過ぎません。そもそもHMBの効果を否定してしまったら、必須アミノ酸ロイシンの代謝物が実在しない、ということになってしまいます。
HMBの効果を否定する意見が出てきてしまうのは、「科学」の在り方を誤解していることに由来しているのかもしれません。
科学というのは、基本的にまず、ある「事実」の存在を証明する【実証実験】が行われます。その実験を経て、「Aという物質がBという働きをする」という【仮説】を、「どうやら事実のようである」として【科学的事実】に“昇格”させるわけです。このことは、わりと一般教養のレベルで理解されていると思います。いわゆる「理科」ですね。
しかし、学問の世界に携わっていない人々は、たいていの場合、科学にはまだそこから先の段階があることを知りません。
そこから先の段階。それは何かと言いますと、いちど提出された【科学的事実】がどれくらい信頼に置けるのかをテストする、いわゆる【反証実験】のことです。実験というのは、しょせんは人が行うものです。人には意思があります。科学者にも、自分の実験を成功させようという野心があります。「こうであるに違いない」とか「こんな結果がでるはずがない」とか、そういう願望から逃れられません。だからしばしば科学者は、冷静さを失い、不都合な事実に気づかないフリをしてしまうことがあります。
科学の世界では、これを「バイアス」(先入観:偏り)と呼んでいます。それゆえ科学実験は、必ず、【実証実験】と【反証実験】がセットでなければならないのです。それではじめて、【科学的事実】の強度を高めることができるのです。このとき【反証実験】の役割は、これまで提出されてきた実験データに疑いの目をもって臨むことにあります。
そうです。【反証実験】は、基本的に事実に否定的な立場をとるのです。だからこそ、意味があるのです。この“厳しいテスト”を耐えるだけの強度がなければ、【科学的事実】は信頼に足るものではなかったと判断されます。
おそらく、HMBの効果にネガティヴな意見は、HMB実験における【反証実験】のそうした部分に目を引かれてしまった人々によるものなのでしょう。人というのは、肯定的な意見よりも否定的な意見に目がいきがちです。まさにこれは、人の心がうみだす「バイアス」に他なりません。
現在時点でまず間違いなく言えるのは、HMBには効果がある、ということです。「効果がない」というのはまったくの誤りです。正しく言いなおすなら、HMBは「状況次第では効果がでにくい」。それが反証実験によって浮彫になったHMBの【科学的事実】なのです。
大事なのは、適切なHMB摂取を継続することです。この世の中に、短期間のうちに効果のでる魔法の食べ物やサプリメントなどありません。HMBがその科学的信頼性を確保できるようになったのは、20年にもわたる実験を蓄積したからこそです。